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Activity introduction

活動紹介

活動紹介

第1回継続研鑽研修会

日時:2022625日(土)
場所:ウエディングプラザ「アラスカ」(青森市)
参加者:42
講演テーマ
.SDGsについて考える」講師:青森大学社会学部教授 藤 公晴氏
.SDGsなコンクリートと生きる」講師:月の泉技術士事務所代表 石川 弘子氏

講演Ⅰ SDGsについて考える
講師:青森大学社会学部教授 藤 公晴氏


戦後の経済発展に伴う環境問題(公害)、東西冷戦、(中近東の)紛争、貧困問題等の地球規模の課題が生じる中、1969年に人類は月面に降り立ち、宇宙空間に浮かぶ地球を見て、地球的な限界と相互依存の自覚を覚えました。そして1983年国連総会に設置された特別委員会で「持続可能な開発」という言葉が生まれました。すなわち、環境と開発の両立、将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく今日の世代のニーズを満たすような開発の概念が生まれました。言葉が生まれた当初はまだ掛け声が先行していましたが、2000年に国連で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)では、発展途上国への支援が重視されたものの、世間ではまだ他人ごとでありました。2015年の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)において全ての加盟国と利害関係者との関連性を重視されるようになって、はじめて自分ごととして捉えられるようになりました。(図1参照)

 

図1 SDGsが生まれるまでの経緯

SDGsには17の目標がありますが、これらを自然を基盤として体系的に表すと図2のようになります。上から見ると分かるように自然環境の中に人間社会があり、さらにその中に経済があり、これらを対話(パートナーシップ)という手段で実践していくことを示しています。このようにSDGsを実践するということは、自然の再評価につながります。

2 自然を基盤としたウエディングケーキモデル

SDGsは、複数の課題や関連性を考え目標達成に向けて具体的な行動と指標作成を促す政策遂行のキーワードでありますが、その実施者は国際社会から、国、自治体、企業、大学、個人等と幅広く、コミニュケーションのツールとして捉えることもできます。また、規範・あるべき姿として、それぞれが追求していくものとも捉えることができます。
 
このように幅広いSDGsとの付き合い方について講師は、17目標と照らして具体化していく明示的な方法(モード1)と、SDGsに囚われ過ぎずにSDGsの具体性と複合性に着目しながら身近な課題から取り組んでいくツールと捉える方法(モード2)を提案しています。
幅広いSDGsは、生きがい、自己実現、自然とのつながりから個人の幸福感にもつながります。また、地方にとっては、自然環境の価値の再評価、付加価値の創出、若者の故郷愛へとつながります。では地域の技術士にとってSDGsとは何か、講師から問を投げかけられました。最後に講師からSDGs時代の技術士の在り方について提案をいただきました(図3)。

3  SDGs時代の技術士の在り方(講師私案)
藤 公晴氏講演状況

講演Ⅱ「SDGsなコンクリートと生きる」
講師:月の泉技術士事務所代表 石川 弘子氏


9,000年前から使用されているコンクリートは鉄筋との相性が良く鉄筋を加えることで引っ張り圧縮強度が増すばかりだけではなく、コンクリートの強アルカリ性により鉄筋表面に保護膜を作り鉄筋の腐食が抑えられます。また、両者の線膨張係数が同程度であるため、任意の温度変化に対して同じだけ伸び縮みします。このような特長からコンクリートは様々な場所で利用されています。ここでコンクリートの特長をさらに生かすためにマイナス面・プラス面について考えると、先ずマイナス面については、①原料である石灰石、砂、砂利、水を大量に消費すること、②セメント製造時に石灰石からの脱炭酸反応によりCO2を大量に排出すること、③地表面被覆のコンクリート化等によるヒートアイランド現象、④殺伐とした雰囲気であることなどが挙げられます。一方、プラス面については、①セメントの原料である石灰石が国内自給率100%であり、コンクリートは安価で身近な材料であること、②ダムや堤防など、安全安心な社会資本整備には欠かせないものであること、③他産業の産業廃棄物を受け入れより付加価値の高い製品を作り出していること、④使用済材料を再利用できること、⑤供用期間中の環境改善ができること、⑥漁礁などの生物生息空間を提供できること、⑦長期供用により材料及び廃棄物排出を抑制できること、⑧土木遺産やインフラツーリズムとなることが挙げられます。これらマイナス面をプラス面により相殺できれば、コンクリートの価値をさらに高めることができます。(図4参照)

4 コンクリートのプラス面とマイナス面
  (出典:石川氏の講義資料より抜粋)

例えば、天然資源の消費は、使用済コンクリートの再利用などの取組を進めることで相殺していくことができます。ヒートアイランド現象は、保水性能を高めた舗装道路の整備や緑化の促進などで相殺できます。殺伐とした雰囲気もプラス面を生かすことで相殺することができます。CO2の大量排出に対する対策は、現在様々な取組が行われています。コンクリートは製造時にCO2を排出しますが、その後にCO2を吸収する作用も併せもつことから、その性質を利用して、材料の製造、練り混ぜ、養生、供用の各段階で積極的にCO2を吸着・固定する技術が世界中で開発されています。例えば、廃コンクリートにCO2を吸着させ炭酸化し、そのコンクリートをカルシウム溶液に漬け、粒子間に炭酸カルシウムを強制的に抽出させる方法が挙げられます。計算では生コン製造時のCO2と同程度の量を吸着させることができるとのことです。一方で、コンクリートにCO2を吸着させると炭酸化によりコンクリートが中性化し、鉄筋に覆われていた保護膜が失われることから腐食させない工夫が必要になります。このようにコンクリートにも課題はあるものの、再利用可能でありSDGsな特長をもつことからその価値はさらに高まるものと考えられます。最近では自然環境が有する多様な機能(生物の生息、気温上昇の抑制等)を活用して、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるグリーンインフラの導入が世界的に進められています。日本では、オフィス街に森を再現したり、水理解析により護岸を撤去するなどの導入が進められています。
 
最後に講師から、コンクリートの特長を生かしつつ、グリーンインフラとグレーインフラ(コンクリート製品)との棲み分けを考えながら、ともに生きたいSDGsなコンクリートを作っていくべきとの提言をいただきました。

石川 弘子氏講演状況

研修会受講状況

記事/CPD委員 鈴木 将文